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クライアントインタビュー vol.1


カーステン・ブルン 氏
バイエル薬品株式会社 代表取締役社長


社長・役員を含めた99名がEGAKUプログラムを実施した、ドイツを本社とするバイエル薬品。2013年3月に社長に就任し、会社のカルチャーの変革に取り組むカーステン・ブルンさんに、EGAKUの経験、アートへの想いなどを語っていただきました。振り返ると、たった30分強だったにも関わらず、まるで数時間に思えるような、凝縮したきらきらした時間でした。

インタビュアー:山崎 繭加 氏(ハーバード・ビジネス・スクール 日本リサーチセンター アシスタント・ディレクター)


Carsten Brunn ― EGAKUに参加するずっと前から、もともとアートに興味をお持ちと伺いました。

最初にわかっておいていただきいのですが、私自身にはアートの才能はあまりないのです(笑)。でも常にアートを観る側の立場から楽しんできました。これまでたくさんの国に住み、働いてきましたが、その土地のトライバルアート(先住民によるアート)をみると文化がよく理解できることに気付きました。もともとは、アメリカの西海岸で学生生活を送っているときに、ネイティブインディアンのアートに出会い、その美しさに心うたれたのがきっかけです。原始的だけれども美しい。アートとはその国の魂まで降りていくものだと思っています。

― 初めてホワイトシップの活動、EGAKUプログラムの話を聞いた時、どういった印象を持たれましたか?

会社としていつもとは違うことをしたいと考えていました。会社のトップ100名に、いつもの縦割りの仕事を離れて、全体感のあるものに取り組んでほしいと思っていたのです。ハンドクラフト、陶芸、音楽、ドラム、スポーツなど、いろいろなものを検討している中で、EGAKUのことを知りました。

EGAKUは様々なオプションの中で、私にとっては一番不安が大きいものでした。アートの才能がないので。でもスポーツなどとは違って絵を描くのは誰もができること。そこで思い切ってやってみて、社員の反応を見てみることにしました。どういった反応があるのか、すごく心配だったのを覚えています。

― 全体感のあるものに取り組む、という活動が、社員の方にとって必要だと思うに至る、何かきっかけのようなものはあったのでしょうか?

これまでたくさんのワークショップやイベントに参加してきており、そのうちのいくつかはアートを使ったものでした。一度、とてもシンプルなアートのセッションを、当時率いていたアメリカのセールスチームとともに受けたことがあります。まず自分たちの手を石膏で作ります。そしてチームで集まる時は必ずその「手」を持ってきて机の上に置きながら話をする、ということをやりました。とても楽しかったのはもちろんのこと、どこか宗教の儀式のようで、より深い意味があると感じました。「手」によって人々がつながり、一体感が生まれたのです。

― 様々なオプションから最終的にEGAKUを選ばれたんですね。

私自身がまず自分のコンフォートゾーン、居心地のよい状態から出なければいけないことはわかっていましたし。でも、実際にくにさんが来てプログラムが始まった時は「ああ、一体なんてことに自分を引きずり込んでしまったんだ」と思っていましたよ(笑)。

― EGAKUプログラムを経験されて、いかがでしたか?

null ぐったりと疲れましたが、でも完全に没頭しました。ワーク中、周りを見渡しましたが、みんなとても静かだった...自分を振り返りそして入り込んでいたのです。絵を描くと最初に聞いた時は、社長は頭がおかしくなったのでは、と思った人もたくさんいたはずです。でも実際始まってみると、みんな真剣に取り組んでいました。そして結果は圧倒的に素晴らしかった。EGAKUプログラムは人々の心の芯を揺さぶったのだと思います。

その後、99名全員の絵の展示を、工場と大阪・東京のオフィスで行い、多くの人たちがそれを観て美しいと言っていました。そしてくにさんが99名全員の絵を一つのアート、富士山の絵に結晶してくれた。その絵は今私のオフィスに飾っていて、来た人みんなが観ることができます。また、EGAKUプログラムに参加したほとんどの人が、描いた絵を自分のオフィスや机の上に飾っています。絵が人をつなげてくれる。

― 一番驚いたことは何ですか?

参加した社員の反応には驚きました。誰も苦情を言わなかったし、フィードバックでもすごく高い評価を得ました。みんな本当に楽しんでいた。中には「自分は絵が描ける」ということにショックを受けていた人もいます。当初の予想を上回る強い反応でした。

Bayer Commissioned Artでも一番衝撃を受けたのは、くにさんが創ってくれた富士山のアートでした。99名の想いが詰まったパワフルな絵です。観るたびに、心が揺さぶられます。ビジュアルとして美しいというのもありますが、何より意味があり、私たちをつなげてくれる絵です。会社のトップ100名の、バイエルで働くことへの想いが、そこにつまっているのですから。

― その後社員の方々の態度に変化はありましたか?

それはちょっと一言では言えないですね...私にとってEGAKUは、会社の文化を変える旅、人々が自己を振り返りそして人を中心に置くような会社にしていく旅の、パズルのピースの一つでした。そのための施策であり、何もかもアートがよい、というようにはしたくなかった。すべては変化、しかも継続する変化のためです。

一方で、大変重要な施策となったのも事実です。アートとは継続性のあるものです。アートを創ったらそれを持ち続けることができる。一回の施策でありながら、継続する効果がありました。アートには正しいエネルギーがある、とでも言えるかもしれません。自己を振り返り、でも同時に自己を表現する。さらに創ったものはお互いに共有することができます。EGAKUは、アートを創るだけではなく、創ったアートをお互い鑑賞して感想を共有するワークショップですからね。

― お互いの絵を観て、それまでは知らなかったその人の一面を知ることができますよね。

99枚の絵はすべて全く違いました。色の使い方、使っている技法...そこには多様性がありました。やる前は、描かれる絵は大体似たようなものになるのではと思っていたのですが、そうはならなかったのはうれしい驚きです。99名が、それぞれ異なるやり方で自分を表現した。それはグループに多様性がある証拠です。

― 多様性があるという気づきは、希望につながったのでは?

その通りです。自信を得ました。99名のほとんどは中年の日本人男性ですが、その中にあれだけの多様性があったということです。アートは人々の感情に強く訴えつなぐものです。

昨日、製薬の業界団体で話をしました。3つお話ししたうちの一つが、どうやって人々の心をつかみ、それを会社の理念につなげていくか、という話でした。その例としてEGAKUの話をして、ビデオを観てもらいました。話の後、たくさんの人がやってきて、「とても心を打たれました。うちの会社でもできますか?」と聞かれました。

― そうした反応になったのは、ヘルスケアの業界の方々だったから、というのはあるのでしょうか?業界の性質上、社会に対して何ができるのかということをヘルスケア業界の方々はよく考えていらっしゃるのではないかと。

イエスでありノーでもあります。ヘルスケア業界を取り巻く環境は変化しています。業界として改めて振り返る時期なのではないでしょうか。以前、主要な製薬企業の理念を全部読んだことがあるのですが、どれも似たようなものです。社会への貢献、患者のため、倫理的であれ、などなど...しかし私たちは本当にそうした理念に基づいて事業を行っているのでしょうか?会社で働く社員が自身と会社の理念とを結びつけて自己を捉え直さないといけません。

Carsten BrunnEGAKUでやろうとしたのはまさにそれなんです。バイエルの理念は「Science for a Better Life」ですが、ではそれは「あなたにとって」何を意味するのか?そしてどうやって社員が正しいモチベーションを持つようにできるのか?最終的に、間違いは一人一人の社員によってなされるものです。社員それぞれが会社の理念を自分のものとして考えてほしいと思ってEGAKUをやりました。そしてこれは、スキャンダルに揺れる業界にとってますます必要度を増していることだと思っています。あなたの組織の目的は何か、そしてその目的をあなた自身が信じられるか、問い直す作業です。

― 以前人権活動家の方々と「何が人間を人間たらしめているのか」というテーマでEGAKUをやったことがあります。人権とは何か、頭ではわかっていましたが、腹落ちはしていなかった。でも絵を描いている間に、突然自分が大変恵まれている状況にあること、そして空気のように享受しているその状況こそが人権なのではないかと、理解した瞬間がありました。こうした気づきは、知的に何かを理解することと全然違いますよね。

はい、まさにそれこそEGAKUがやっていることです。多くの社員にとって、いえ正直に言えば私もそうですが、EGAKUで初めて、バイエルの理念が「自分にとって」何を意味するかを考えたのです。社長として理念をどう伝えたらいいかということは、たくさん考えてきていましたが。でも、私自身が、個人として、理念をどう考えているのか?その質問を考えることで、自分の人生の目的とは何か、その目的が会社の理念とあっているのか、深く考えることができました。興味深い発見でした。

― EGAKUで会社の理念をとらえ直したことを踏まえ、その後会社の方針や戦略を変えた、ということはありましたか?

いや、それはないですね。でも、今は会社の理念を自信を持って話すことができています。人が聞けば、私が本当に理念を信じているということがわかると思います。なぜなら、頭だけではなく心で、理性だけではなく感情で、理念のことを考えたから。何かを伝える際、それに対し感情的な愛着があったほうが伝わるものです。つまるところ、人間とは理性ではなく感情の生き物ですからね。

― アートとビジネスの関係について考えをお聞かせください。

Carsten Brunn歴史的にビジネスとアートの間には強い関係があったと思っています。ビジネスリーダーの多くがアートのコレクターだったり、たくさんの会社がアートを展示し、購入し、また大きなコレクションを持っています。また、アートを会社のブランド戦略のために使おうという動きもありますね。アートとビジネスとの間には常につながりがあった、でも一方で、その間には一定の距離がないといけないと思っています。アートは商業的になりすぎてはいけないから。アーティストには創造の自由、クリエイティブになる自由が必要です。

― バイエルの99名の「アーティスト」についてはどうお考えですか?いつもはビジネスパーソンですが、あれだけ美しいアートを生み出すことができた、つまり彼らもアーティストと言えるのでは?

ああ、そうですね。アートとビジネスは互いに矛盾するものではないですね。

— またEGAKUのワークショップに個人の参加者として参加したいとお考えですか?

はい、ぜひ。会社でのEGAKUの後、ホワイトシップのギャラリーでのEGAKUプログラムに参加したことがあります。そこで描いた絵は、一回目の絵と全く違うものになりました。すごく面白いですよね。自分ですら知らなかった自分を発見しました。

― たくさんのことを学ばせていただきました。どうもありがとうございました。

インタビュアー プロフィール:
山崎 繭加 氏 (ハーバード・ビジネス・スクール 日本リサーチセンター アシスタント・ディレクター)
マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学先端技術研究センターを経て、2006年よりハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチ・センターにて、主に日本の企業・ビジネスリーダーについてのケーススタディの作成に従事。また東京大学における全編英語で行われるプログラムの運営と教育にも関与し、EGAKUプログラムを導入。NPO法人インスティテュート・オブ・コミュニケーション・アート(IOCA)では、高等教育、グローバルな場でEGAKUプログラムを広げていくことを自らのミッションに、副理事長として活動している。東京大学経済学部、ジョージタウン大学国際関係大学院卒業。